一雫の憧憬

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 このとき私達には六月の半ばにある大会に向けての部内予選が控えていた。メドレーリレーのチームは三つあるが、各学校から一チームしかエントリーすることができない。Cチームは最後のチームというだけあって、言いづらいことではあるが、A、Bチームに比べるとメンバーの実力は高くない。それでも、コーチがリレーメンバーにしてもいいとお墨付きをくれた部員で構成されていることは確かなのだが。 「AチームとBチームの子たちを驚かせてやろうね!」  自信をなくす私達を見て、有沢先輩はそう言って笑った。  部内予選当日。  他チームの先輩達と「お互いがんばろうね」などと声をかわしたあと、四人で円陣を組んだ。 「小暮ちゃんは、膝伸ばすこと。立木ちゃんは、顎を引くこと。かほちゃんは、遠くから水を持ってくるように掻くこと。私は腰をちゃんと使うこと。を、意識して、頑張りましょう!」  コーチのホイッスルとともに小暮先輩がスタートする。  最終泳者の私がプールの淵にタッチしたのは、三番目だった。  三番目のチームは当然三位だよね。なんて声が聞こえてくるようだった。こんなこと、他の部員達は思っていないんだろうけど、やっぱりね、くらいは思ったのかもしれない。Cチームのメンバーは、そう思わざるをえない。少なくとも、私は。  私がスタートするとき、有沢先輩はBチームと同着だった。Aチームが先頭だったけれど、追いつけない距離ではなかった。    そんな状況で、足を引っ張ったのは、私。
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