一雫の憧憬

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「そろそろ帰ろうか。かほちゃんちが心配してるかもしれないし」  小暮先輩と立木先輩は徒歩での通学なのでファミレス前でお別れし、私と有沢先輩は駅へ向かった。 「先輩、やっぱり、ごめんなさい。私のせいですよね、今日負けちゃったの」  電車のつり革に掴まりながらおそるおそる言うと、先輩はゆっくりこちらを向いた。苦笑している。本当は小暮先輩や立木先輩もいるときに言わなきゃならなかった。それはわかっているのだけど。 「かほちゃん。かほちゃんにそんなこと言われたら、私達だってかほちゃんに謝らなきゃいけなくなっちゃう。私達がほんの少しずつタイムを縮められたら、かほちゃんにそんなこと思わせずに済んだのにって」  つり革から手を離した先輩は、電車の揺れに少しよろけながら私の頭に手を置いて、くしゃくしゃっと撫でた。 「同じチームなんだから、そんなことばっかり考えてちゃだめ! 私、かほちゃんと泳げて嬉しいよ」  先輩は自分で乱した私の髪を手櫛で整えてから、「私の駅ここなの。気をつけて帰ってね」と言って降りていった。  先輩のポニーテールが揺れて、遠ざかって行く。  私の頭には、先輩の手の感触が残っていた。
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