【第5話】チャーハンの匂い

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「そうだ! たしか二回の表、 阪神が満塁で福留がバッターボックスに立った時、 客がひとり入ってきましてね」 「そう! きっと、その頃だと思うんだ!」 「やけに息が荒くて、 注文聞いても答えないし、 試合が気になるもんだから、 苛々しちゃいましてね。 実は、こう見えても阪神ファンで」 「男の人ですか?」 「ええ、若い奴でね、 結構いい格好してましたよ。 そういや車も外車で、 BMWでしたっけ? そんなような車でした」 「何色ですか?」 「たしか、黒かグレーだったかな」 「警察に知らせて、調べてもらおう!」 「だめよ」 「どうして?」 「犯人がこのお店に寄ったことを、 どうやって説明するの?」 「そうか・・・」 「それより、おじさん。 その人、なにを注文したんですか?」 「えーと、たしか、チャーハンだったかな」 「じゃあ私、みそラーメンやめて、 チャーハンにしてください」 「でも、もうラーメンが・・・」 「おじさん。 食べられないと思いますよ、それ・・・」 「あっ、いけね!」 あわてて湯釜の麺をすくい出したものの、 原型をとどめておらず、 うどんのように太く茹で上がっていた。 「どうして同じものを?」 「私にとっては、 重要な手掛かりなの。 若い男で、 恵美子さんの匂いをタイヤにつけた、 黒かグレーのBMWを乗り回し、 最近この店のチャーハンを食べたことがあるのなら、 間違いなくその人が、犯人でしょ」 確信に満ちた笑顔で、倫子は言った。
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