【第7話】どこまでも続く匂い2

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「陸橋ですよ。 どうします?」 車は、 『三本杉陸橋』 と書かれたところにさしかかっていた。 「陸橋は渡っていません。 左折できますか?」 「世田谷通りですね。 陸橋の下で左折できますよ」 「お願いします」 「ガッテンだ!」 ふつう刑事ドラマならこんな時、 アクセルを踏み込み、 タイヤを鳴らして勢いをつけるところだが、 スピードをあげると相棒が匂いを見失ってしまう。 遠藤はゆっくりと左折し、 路上駐車でほとんど一車線の世田谷通りを、 クラクションの合唱を背に、 走りはじめた。 「案外、早く辿りつけるかもしれないな」 宇崎は、独り言のように呟いた。 「どうして?」 「僕の妻を轢き逃げした車は、BMWだろう」 「ラーメン屋さんのおじさんは、そう言ってたわ」 「しかも、 若い奴が運転していたんだ。 きっとどっかの金持ちのドラ息子じゃないか?」 「そうね。 でもお金持ちなんて日本中、 どこにでもいるんじゃない?」 「見てごらん、あの標識を。 もうすぐ金持ちだらけの町に着く」 宇崎に言われて、 倫子はフロントガラスの先の標識を見た。 標識は、倫子たちの車が一路、 「成城」という町へ向かっていることを示していた。
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