【第7話】どこまでも続く匂い2

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「不思議だなぁ。 何日も前に走った車の匂いを、 どうして嗅ぎ分けられるんだろう? 毎日何万台も車が、 この道を走ってるっていうのに。 車の一台一台が、 それぞれの匂いを振りまいているんじゃないのかい?」 倫子の能力を、 疑っているわけではない。 宇崎は驚きの溜め息をつきながら、 倫子に聞いた。 「結局、集中力だと思うの。 ほら、普通の人間だって、 大勢の人ごみの中から、 遠く離れた人の会話を聞くことができたりするでしょう」 「カクテルパーティー効果ってやつだね」 「なんですか?それ」 遠藤も、倫子の能力に興味があるからこそ、 こうして仕事を投げうってまで協力しているのだ。 タクシーの運転手ではあるが、 後部座席の会話に参加する資格は十分ある。 宇崎は、遠藤にもわかるように、 説明を始めた。 「カクテルパーティーってほら、 大勢の人が集まって、 立ったままあちこちで、 みんなガヤガヤやっているじゃないですか。 でも目の前の人が、 何を話しているのさえ聞き取りにくい会場で、 遠くのほうで誰かが、 自分の名前をあげて話なんかしていると、 とたんに聞き耳たてたりして。 でもこれが不思議と、 よく聞こえたりするんですよ」 倫子も何かで読んだことがある。 たしかその本によれば、 知覚を刺激する信号の意味や内容によって、 それを受ける感覚のシステムの、 閾値(いきち)が変動すると書かれてあったが、 倫子にはなんのことか、よくわからなかった。 「へぇー。 カクテルパーティーなんてそんな洒落たもの、 出たことねえけど、 そんなに陰口言われるパーティーなんですか? いやだいやだ! 後ろ指差されるようなことは、 これっぽっちもしちゃいねえけど、 そんなパーティーはごめんだね! やっぱり酒は、楽しく飲まなきゃ」 遠藤の言うとおりだ。 閾値だかなんだか知らないが、 自分の陰口に、 聞き耳を立てなければいけないパーティーなど、 自分もごめんである。 宇崎もきっとそう思っているだろうと倫子が横を見たら、 真っ赤な顔をして口を押さえ、 今にも笑い出しそうな声を必死になってこらえていた。
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