第3話

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次の日。私は大学で授業を受けていた。 だが、講義など頭には入らず、取られた本のことばかりが頭を巡る。 このままではレポートが書けない。締切も近く、気持ちがはやる。 だが、もう一冊買うほど懐に余裕はない。だけど、同じ授業を受けている友人に借りることも出来ない。 (どうしよう・・・) 本を取り返したい。 だが、本を持っているあの青年のことを、私は全く知らなかった。あの時が初対面で、三分と経たずに逃げてしまったのだから。 (どうすればいいんだろ) ため息を吐き、授業終わりの癖でスマフォを取り出した。 そこで、知らない番号から着信があることに気付いた。それも、五分おきくらいに。 悪戯だろうか。覚えのない番号からの着信を、私は不審に思い、履歴を閉じた。そのまま鞄にしまおうとしたとき、電話がかかってきた。 番号は、履歴に連なっていたあの番号。 電話をとるか迷い、しばらく画面の上で指を彷徨わせる。そして、コールが七回目に突入した辺りで、ようやく画面をスライドさせた。 「もしもし?」 「ようやく繋がった。高野聖の持ち主の方ですか?」 (高野聖?) 電話口で発せられたわけのわからない言葉に、相手を訝しむ。 「誰ですか?」 「僕、泉水遙人です。君、高野聖の持ち主の人? 僕、病院に忘れられた本の持ち主を探しているのだけど・・・」 ここでようやく、私は電話をかけてきた青年が、昨日外科室前で出会った変な人だと分かった。 出会いが変であれば、再会も変な形だ。それでも、私は本を取り返すチャンスが来たと、心の中で安堵していた。 「それ、私の本です」 「そうか。良かった。鏡花の持ち主が見つかって」 元はと言えば、あんたのせいだろ。 我が道をゆく青年に、心の中で文句を言いつつ、私は会話を進めた。 「その本、今日中に読みたいので、返して頂けますか?」 「勿論。でも、僕は病院から出られないんだ。入院中で」 面倒くさ。思わず口に出そうになる本音をレポートのためとグッと飲みこんで、私は話を続けた。 「では、今から取りに行きます。時間は大丈夫ですか?」 「うん。入院してるから、一年中、暇」 青年は間延びした声でそう言うと、病棟と部屋番号を教えてくれた。私は彼と面会の約束をし、電話を切った。 この約束も、鏡花に導かれた必然だったかもしれない。思い返すと、私は今になって文学青年との運命を感じるのだった。
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