1 前座

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陣平は深夜横になってはいたが、眠れなかった。 天風は殺し合いまで視野に入れて、臨んでくる。 陣平にはその気はない。仮にもシズカの兄だ。 「となると、圧倒的な力量がないと、あしらえないんだよな。殺しに来るヤツってのを殺さないで止めるには。」 ドアにノックがあった。 陣平が移った新築側の部屋は、面積も大きくなり、防音も上がったので、ノックはよく聞こえない。 陣平はドアを開けた。 パジャマのスラリがいた。 「主人のことだ。どうせ、寝つけないでモンモンしてたんだろ? おじゃまするわ。」 さっさとスラリは部屋に入った。 陣平は、スラリは部屋に入り椅子にでも座るのかと思ったが、ベッドに直行して潜りこんだ。 「ほれ、寝る。話は寝ながら。遠慮するなよ。」 そういうところが瀬織に似てる、と思いながらベッドに入る。 「大体の話はハカセから聞いたよ。 で、負けそうなんだな。」 陣平は、スラリの物言いがストレートすぎてクスクス笑った。 「そうなんだ。負けそう。負けると死ぬかも。」 「ああ、アネサンいたら死にゃしない。」 「姉さんでも、即死してたら治せない。」 「黙って殺られるのを見てないだろうよ。」 「殺られるときは一瞬だ。相手は姉さんより速いから間に合わない。」 スラリは陣平の頭を撫でた。 「主人さあ、忘れてる。 霊服で力押しだけではなく、武術の要素を取り入れてるから、仙手と呼ぶんだろ? 動きが速くてとらえられないボクサーとやりあうとき、空手はどうするの?」 「三戦で体をしめて、防御、隙が出来たら、一撃で沈める、かな?」 「他にも手はあるよ。」 「足払いとか、かな?」 「地の利。」 「それは前に床をツルツルに滑らせるとか、やったけど、相手も場所は選んで来る。 対戦は、拓けた場所になるはず、あるいは立木が多ければ、相手も足場として利用するはず。立木に足をついて方向転換するとか…。 待てよ? あ、そうか。どちらにしても、同じことなのか?」 スラリは 「わかったところで、ラブラブしながら寝るとするかあ。」 と、微笑んだ。
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