1 前座

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陣平はまず、しばらくは瀬織の施術で、強引に脳内伝達を速くしていく。 陣平の頭を手のひらで抱えて、施術しながら瀬織が言うには 「本来、自分で無理なくゆっくりやるのがいい。けど間に合わないからね。 何日かかけて、脳と全身の神経を強化するわ。」 と、いうことだ。 昼間は普通に学校に行く。 バランスをとるためと、体を休めるためだ。 施術の影響は2、3日もするとすぐに出てきた。 朝、登校するために電車に乗り、窓の外を見ていても、幼児のこぐ三輪車のようにノロノロとしているように見える。 見るからに陣平はカリカリし出した。 単に遅く感じるからだけではない。 脳神経をいじっている弊害もあるのだ。 全身から怒りのオーラが、立ち上るのが素人目にもわかる。腹ペコの虎がそこにいるようだ。 ナデシコが、声をかけた。 「あまり、イライラしないよう…周りの乗客まで怯えますから。」 陣平はナデシコをにらんだ。 「あ?!わかってる!」 シズカはハラハラしながら見守っていた。 学校に着いても、落ち着かない。 塩浜にナデシコはフォローを頼んで、自分のクラスに行った。 日に日に陣平は変貌していく。 イライラは収まってきた。 慣れてきたのだ。 速度の概念を植え付けるため、瀬織と陣平、ハカセは某サーキットにやって来た。 航空機では周りが開けているのでスピード感が薄い。そこで、レーシングカーの屋根に陣平を乗せ、レーシングカーで走ってもらい、速い速度の感覚を身に付けさせようというのだ。 市販車を改造したレーシングカーと、口の固いレーサーを用意した。 レーサーの男は、 「どうなっても知りませんよ。」 と、吐き捨て、車に乗り込んだ。 おかしなことをしてみたい若者の1人だと思っているのだ。
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