1 前座

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陣平は霊服を張り、屋根に立つ。 「いつでも!」 車が走り出す。 陣平は時速150キロを越える辺りから口元に笑みが浮かんだ。 「少しスッキリしてきた。」 コーナーで車が曲がると、陣平は転げ落ちた。 「あはははは、たのしいー!」 レーサーは車を止め、陣平に駆け寄ろうとしたが、陣平はピンピンして走ってくる。 「なんだ、こいつ。」 レーサーは気味が悪くなった。 陣平は屋根に飛び乗る。 「発車オーライ!」 陽気にゼスチャーした。 小一時間走り、陣平は感覚をつかんだ。 「よし!自力で走る!いいよね?」 子供のように、はしゃぐ。 瀬織は許可した。 「コースを壊さないでね。」 「いやっへーい!」 陣平はホバークラフトのように地面から浮き上がり、走り出した。 その体勢はスキーに似ている。 レーサーの男は、心底気味が悪そうな目で見ている。 「おいおい、浮いてるよ…」 ハカセはストップウォッチでタイムを計っている。 陣平が戻ってきた。 レーシングカーよりも速いように見えた。 目の前を通り過ぎる時、ハカセがつぶやいた。 「一周、58秒28。」 レーサーの男が、 「バカな…」 とつぶやいた。このコースは92秒がコースレコードである。 もう一周してきた陣平は、速度が落ちている。 瀬織達の前で停止した。 へたり込む。 「もう走れない。えへへ!」 気が尽きたようだ。 それでもハイになっているので、ヨレヨレだが、ヘラヘラしていた。 瀬織はレーサーの男に丁寧に礼を行って引き取ってもらった。 最後に、口止めを念押しした。 「今日のことは忘れるように。」 レーサーの男は 「ああ。悪い夢だ。」 そう言って、去った。
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