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私は、鏡に映るそんな自分の姿に嫌気が差し、目の前のソレをキツく睨み付けた。瞬間ーー鏡は、不可解な音を立て、全面に亀裂が入る。
まるで何かの能力(ちから)によってそうなったかのように、次に私が鏡を見た時には、鏡は脆く音を立てて床に落下した。あとに残るのは、建物の骨組みとコンクリートの壁。
「そうだ。……忘れてた」
ふと、頭の中に忘れていた事が甦る。
ベッドに仰向けで息絶えた男。
側によると、生臭い血の匂いが鼻を突く。
腹部にポッカリと開いたら空洞からは、食べきれなかった臓器がはみ出し、ベッドは男の血で赤に染まっている。苦悶の表情を浮かべ、二度と目覚める事のない男に、私はそっと手を翳(かざ)す。
生暖かい風が男の身体を包み込んだかと思うと、その風は刃の様に男の肉体を刻み、引き千切り、押し潰し、数秒で肉の塊に変えた。
ベッドの上にあるのは、ほんの少し前まで人間だった物体。歪な形の肉団子状の球体には、髪の毛や歯が埋まっている。
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