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銀色だった包丁は気がつくとどす黒い赤色で染められていた。乾いて凝固した血液。転がる惨殺体。
…………大丈夫。今回は覚えている。
僕は人を殺した。
包丁を捨て、僕は先程まで男に占領されていたPCチェアーに腰かける。
なにも心配することはない。これは全部僕の夢なのだ。
現実とそう変わらない部屋の現実とそう変わらない状況で現実では味わえない快楽を堪能できる夢。
……なのになぜだろう。なぜ――。
「満たされないのか」
「ッ!?」
血だまりに倒れていた形を留めていない身体が、糸で吊るされた人形のように関節を無視してぐらりと立ち上がる。足や手だったもの――肉の見えている部分は不自然な方向に曲がっている。
腰の力が抜けて僕はへなへなと椅子からずり落ち、その場に座り込んだ。
「なにを驚くことがある? これは夢だ。死んだはずのやつが生き返ってもなにも不思議じゃないだろう? 土台が荒唐無稽なんだから」
血管の裂けた目玉が限られた区域で忙しなく焦点を方々へ散らせる。
醜さをとうに通り越した地獄絵図に僕は溜まらず胃酸を逆流させた。
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