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「おいおい、自分でやっといてそりゃないぜ」
血と吐瀉物が混ざり合い異臭を漂わせる中、〝そいつ〟は今日一番平然とした口調で言ってのける。
「最悪な気分だよ。オレをこんなにしといてまだ足りないどころか、溜めてたもん全部ぶちまけられてよ。こうなると口のない死人はいろんな意味で悲惨だーねー」
ひどい目眩がする。胸がすごく窮屈だ。呼吸が満足にできない。
「な、にを……」
それ以上言葉を紡ごうとして、また僕は僕の中のものを吐き出した。
沿岸沿いで潰れた蟹を見るような目で僕を見下ろし、目の前の〝それ〟は言った。
「どうして満足できないか。簡単さ。ズレてるんだよ、おまえは。自分の現実と向き合おうとしないから――ホラ、いつからか自分にとっての本当がわからなくなってる」
「あ……あ……」
「殺したかった? 違うだろう。――死にたかったんだよなあ? 本当は。あのときから――『あの子』と『あいつ』が付き合ってることを知ったあの瞬間から! ずっと!!」
「死」を緻密に計画していたわけではない。
ただ生きたい理由を失って、漠然と死んでみたいとは思っていた。
「痛かったぜー。何度もグサグサグサグサ。不気味にニィーって笑いながら」
「……ご、め……」
「いいよ謝んなくて。おまえはオレでオレはおまえだ。おまえのやったことはオレのやったこと。オレのやりたいことはおまえのやりたいことだ。だから――言ってる意味、わかるよな?」
目の前の〝それ〟が僕の捨てた包丁を拾い上げ、その赤黒く染まった刃先を僕に向けてゆらゆらと近づけてくる。不気味に口角をニィーっと吊り上げて。
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