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「く、くるな!」
言葉を絞り出す。すると〝それ〟は以外にも命令通り前進を止めた。ただすぐにそれが僕の要求とはまったく関係ない理由からの行動だったことを知る。
「メガネ」
「え?」
〝そいつ〟は肉の削げ落ちた骨身の足で乱暴にベッド脇のサイドテーブルを蹴り飛ばす。衣類とゴミが散乱する部屋にテーブルの引き出しから落ちた二つのものが転がった。
あの子と初めて二人で出かけて買ったもう割れてしまったメガネと、薬剤を入れた袋。中身は――大量の錠剤?
なぜだろう? 僕はその薬がなんであるかを知っていた。
――――睡眠薬。
「……おまえ、あのとき“わざと”それ、潰したんだぜ? 踏ん切りつけるために」
裂けた額。血みどろの顔。定まらない眼球。見るも無残な姿に変わり果てた〝そいつ〟が――なぜだろう。泣いているように見えたのは。
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