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包丁が振りかざされる。
――蛇口から落ちた一滴の水が、小さな部屋に不自然なほどよく響いた。
「……ああ、なんだそういうことか」
夢だの現実だのと、なるほどたしかにくだらない。こいつの言う通りだ。
最初から現実を見ようともしていなかったやつに夢と現実の境を教えてどうなるというのだろう。 どこからが夢でどこからが現実か。どこまでが嘘でどこからが本当か。そんなのは些細なこと。
それよりも問題は僕自身にある。
自分ですると決めたことに関する責任と感情と結果は本来全て自分で引き受けなくてはいけないのに。
僕は全部を今目の前で泣いている〝こいつ〟に丸投げしていた。
僕の代わりに問題と向き合い、僕の代わりに苛まれ、僕の代わりに命火を絶つ――そんな架空の人間を僕はいつの間にか無意識に作り出してしまっていた。
彼が抱えているものは全部、僕が背負うべき重みなのに。
「……ごめん……ごめん……僕」
頬を一筋の涙が流れた。泣きたくなるほどに、それは温かかった。
「……自分に自分を殺させるなよ」
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