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振り下ろされた包丁が僕の胸を抉った。
鈍い痛みに全身を包まれながら僕は眠るように目を閉じる。
その間際、もう一人の僕は透けるように消えていった。
この、今すぐにでも喚き散らしたいほどの痛みが、僕がしてしまった取り返しのつかない行動の正否を代弁している。
もうこの部屋に僕の姿はない。
僕を見つけてくれる人もいない。
僕を助けてくれる人もいない。
僕もおそらく静かに消えていくことだろう。
ああ、なんてくだらない人生だ。
――だけど、それでいい。
どこにも救いはないけれど。なにもよくはなかったけれど。それでも――それでいい。
なにも報われることがなかった微睡みの旅路の果てで、僕は確かに僕でいられるから。
「僕はただ……愛されていたかった……」
ゆっくりと、静かに、穏やかな流れの川を行く笹の葉のようなスピードで、僕の心音が遠ざかっていく。
――蛇口から落ちた一滴の水が、小さな部屋に不自然なほどよく響いた。
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