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――僕はなにをやっているのだろう。
思考が堂々巡りの沼に落ちていく。
「……ダメだダメだ」
バシャバシャと顔を洗って僕は腐った考えを捨てた。バスタオルで濡れた顔を拭う。顔をあげると、目の下に深々と黒いクマを刻んだやせこけた男がこちらを見ていた。その目はどこか虚ろで、腹の底に得も言われぬなにかを隠し持って見えた。見れば見るほど不愉快だった。
「気持ち悪いんだよ」
男に向けて言ってやる。
「見てくるなよ」
男が生意気に言い返してきた。
「殺すぞ」
負けじと脅迫めいた口上で返す。
「殺してみろよ」
男は口元を僅かに緩ませてみせた。
僕はそれ以上言い返すことができなかった。
「……くだらない」
代わりにひとりごちり、僕は鏡の前から去った。
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