2人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
目を覚ます。枕元の時計は午前三時半を指していた。少しばかりは眠れたらしい。
さて、まだまだやらなければいけないことがある。すぐに起きて作業に戻らないと。
「よく眠ってたじゃねえの」
ギョッとして目を大きく見開く。見慣れた天井と照明がよりくっきり見えた。飛び退くようにして上体を起こすと、デスク前の椅子に悠然と腰かけた〝そいつ〟はこちらも見ずにキーボードをカタカタしながら口を開いた。
「おまえがスヤスヤ寝てる間にいくつか仕事終わらせといたから。感謝しろよな」
背筋をなにかが這いずり回るような気味の悪い心地だ。ひどい目眩がする。胸がとても苦しい。
「……おまえは誰だ?」
「おいおい、なに寝ぼけてんだよ」
〝そいつ〟は作業を中断し、椅子を九十度回して呆れたように僕を見て、言った。
「オレはおまえだよ」
僕は咄嗟に言い返すことができなかった。
目の下に深々と黒いクマを刻んだやせこけた男がこちらを見ていた。その目はどこか虚ろで、腹の底に得も言われぬなにかを隠し持って見えた。見れば見るほど不愉快だった。
〝そいつ〟はどう見ても僕そのものだった。
最初のコメントを投稿しよう!