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「可愛いだろ?茜ちゃん」
帰宅の道中、信二はそんなことを言う。
「ひよりちゃんに似てな」
「そうだろそうだろ?」
「…………。ありがとな、信二」
「そう思うなら、態度で示せ。もう、一年経ってんだ」
俺の過去を知ってる信二。
元気付けるために呼んだのは、ホントだった。
一年前の夏から、俺は変わった。
明るかった俺が、自殺未遂をするほど、どん底に落ちたことも知っている。
信二だけが知っている。
俺のことを゛鈴゛と呼んでいたのが、゛速水゛と呼ぶようになった理由も知っている。
゛お前には関係ない゛と、心配してくれていた信二を突き放した俺への、怒りだと。
「いつまでもこのまま、ってわけにはいかねぇだろ。なにも、忘れろなんて言ってない。でも、いつまでも過去に囚われてたら、お前はこのままなんだぞ」
わかってる、とは言わない。
「ありがとな」
「俺は、今のお前が大っ嫌いだ。殴りたい。でもそんなことしたって、お前は落ち込むだけだし、喧嘩になるだけだ。でも、一年前のお前を知ってるからな。あのときみたいに、また楽しくつるみたいんだ。だから…………」
「がんばるさ」
まだ一年?
もう一年?
わからない。
前を向かなきゃな。
ホント、お前には頭が下がらないよ、信二。
俺、そろそろ忘れてもいいかな…………美雪。
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