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「何か御用かい?お嬢さん」
顔を向けずに、目だけで楓を見て尋ねる男。
「何してるんですか?」
一瞬躊躇したものの何とか言葉を返す。
男はふぅ、と一息置いてから答える。
「そうさなぁ、今夜の献立を考えている所さ」
男はそう言ったがどう考えてもそんな雰囲気ではない。
「つまらない冗談ですね」
楓は思ったとおりの言葉を返す。
「そう言いなさんな、あながち冗談でもないんからね。今夜の食事にも困っていてね、そこいらの雑草で食べられる物がないか探していたところだ」
冗談のなのか本気なのか判断出来ない楓はもう一つ質問を重ねる。
「ホームレスなんですか?」
会話するには少し遠い間合いを巡る言葉。
「ご名答。この公園が気に入ってね、しばらく此処に住もうと決めたんだよ。寝床が決まれば次は食事だろ?ま、そんなところだね」
と、そこで男は初めて楓に顔を向けた。
「ところでお嬢さん、何か食べ物を持ってないかい?流石にこの時間から食べ物を探すのは骨が折れる。もちろんお礼はするがね」
この男にどんなお礼が出来るのか甚だ疑問であるが、楓はカバンの中に入れっぱなしになっているパンの存在を思い出した。
朝にコンビニで買ったものの、食べる暇なく現在に至るパン。
確かクリームパンだったか、とりあえずダイエット中の楓にとっては必須な物でもない。
無言でカバンからパンを取り出して男に歩み寄り、差し出す。
「こりゃ有り難い。いやはや、言ってみるもんだね」
男はそう言いながらパンを受け取った。
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