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「で、どんなお礼をお望みかな?」
楓から受け取ったパンを食べ終えた男は、そうたずねた。
「別にお礼なんていりませんけど」
「そういいなさんな、折角のチャンスなんだから無駄にしちゃいけない」
そう言いながら少し男が笑ったように見えた。
「・・・チャンス?」
「そう、チャンスってのはどこに転がってるか分かったモンじゃない。今、僕が申し出ているお礼がお嬢さんにとってまたとないチャンスかもしれないだろう?」
とんでもなく胡散臭いオッサンに関わってしまったような気がして楓は少し後悔しそうになる。
「例えばそうだなぁ・・・、叶えて欲しい願い事とかね。ほら何かあるだろう?年頃のお嬢さんなんだから願い事の一つや二つあって然るべきじゃないのかい?」
これは本格的に胡散臭いと確信した楓はとりあえず適当な返事を返す事にした。
「今は特に無いですよ」
「・・・今は、か。まあいいよ、僕はしばらくここに居るから何かあったらまたおいで」
「・・・でもあなたに願い事を叶えられるようにはみえませんけど?」
「そんなことはない、ある程度の願い事なら叶えて見せましょう」
「・・・どうやって?」
「実はね、僕は魔法が使えるんだ」
・・・
場に流れる沈黙と重い空気。
楓の思うことは一つ、目の前の男が確実にヤバい存在であるということ。
「・・・失礼します」
速やかにこの場を去ることを決断した楓は少し頭を下げて男に背を向けた。
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