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世田谷通りを西に下ってしばらく走ったあと、
倫子(のりこ)は大きな交差点で右折するよう、
遠藤に指示した。
「宇崎さん、
あんたの言ったとおり、
ヤツのアジトはもうすぐかもしれねえ・・・」
相変わらず二、三十キロをキープしながら、
慎重にハンドルを握る遠藤は、
およそタクシーの運転手とは思えない、
まるでドラマの探偵のような口調で呟いた。
「どうかなぁ・・・。
この道を通り過ぎて、
その先のどこかへ行ったってことも考えられるし」
実は犯人だと思われる唯一の手掛かりが、
BMWを乗り回す若者で、
倫子が指示する方角が成城へ通じる道だったので、
さっきは思わず名探偵気取りで、
「案外、早く辿り着けるかもしれない」
などと呟いてしまったが、
今時、外車に乗っているからといって、
金持ちのドラ息子、
ましてや成城に住んでいるとは限らない。
宇崎はジャーナリストとして安直な発想に、
しばらく顔を赤らめていたのだった。
「この成城っていうのは、
私らベテランのタクシーでも苦手でね。
幹線道路走っているうちはまだいいんだが、
そこからはずれて住宅地にでも入ろうもんなら、
一方通行だの袋小路ばっかりでね、
よく立ち往生するんだ」
「その角を、右にお願いします」
道路にしみついた犯人の車の匂いに集中しながらも、
宇崎たちの話をちゃんと聞いているらしく、
倫子は遠藤の話の腰を折らないように、
会話の合間をぬって指示をした。
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