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「ほらね。
こんな道、
知らないで入ろうもんなら、
途端に迷っちまう。
来た道を戻ろうにも一方通行だし、
地元の人間じゃないかぎり、
近寄らないね」
さすがに高級住宅街だけあって、
道幅はゆったりとしているが、
遠藤の言うように、
今走っている道は一方通行で、
倫子の指示で三度ほど路地を曲がっただろうか、
宇崎はすでに車が、
どの方向に向かって走っているのか、
わからなくなっていた。
「どうだろう?
本当に近くまで来ているんだろうか?」
宇崎に尋ねられた倫子は、
背もたれにゆっくり体を預け、
それまでの緊張を解きほぐすように、
笑顔で答えた。
「この道は、
犯人が車を使う時に必ず通る道です。
はっきり匂いが残っているわ」
「やっぱり・・・」
宇崎は偶然とはいえ、
自分の推理が的中したことに満足し、
さっき赤面したことを後悔した。
「じゃあ、おそらくこの辺の家だ」
遠藤は、
T字路に差し掛かる十メートル程手前で、
車をゆっくり止めた。
「どうしてわかるんです?」
お互い推理を競っているわけではないが、
倫子の指示もないのに、
自信ありげに車を止める遠藤に、
宇崎は少しムッとした。
「ほら、この先の広い道。
さっき通った道だ」
「えっ?」
すでに方向を見失っていた宇崎には、
そんなこと、
わかるはずもない。
「つまりだ、
目指す家があの広い道の先にあるんなら、
なにもこんな入り組んだところに、
入る必要はないってことだ」
ベテランのタクシー運転手にしてみれば、
当たり前のことである。
開け放した窓に肘をつき、
斜に構える遠藤を、
宇崎は、
ただものではないと感じていた。
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