「好きだから」

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千尋くんは、それからほんの数分だけそのままの格好でいて、 「よし、充電した。同じ学校の奴に見られたらまずいから、ここまで」 パーにした両手を、体の横で掲げた。 「俺、違う車両で行くから」 何、無理矢理笑ってんの、バカ。 幸せだった時間が、しゅんとしぼんでいく。 千尋くんは、ひとりで歩きだす。 待って、だめ……! これじゃ、昨日までと何も変わらない。 大股で歩く背中を、走って追いかける。 「待って!」 パンッと叩くように、千尋くんの手をつかむ。 「柚穂さん……」 逃げられないように、両手でしっかりと握る。 「知ってる人に見られると」 「今さらだよ。さんざん抱きついといて……」 「だってさわりたかったんだもん」 「だもん」じゃないよ、こういう時だけ年下ぶって。
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