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3日前に、高校2年生に進学した、あたし、梨本柚穂(なしもと ゆずほ)は、早朝の駅の待合室で、……待っていた。
白いセーラー服の襟をチェックして、胸元のリボンの形を整える。
鏡を見ながら、前髪を手で梳く。
……よし。
1年前から始まった、習慣。
それは……
「ユズ、今日も早いなー」
「横沢(よこざわ)くん!」
決して広くはないこの最寄り駅は、誰かひとりが入ってくるだけですぐに分かる。
片手をあげて、こちらにやってくる彼は、中学時代の部活仲間。
横沢隼人(はやと)くん。
彼はサッカー部のエースで、あたしはマネージャーをやっていた。
「隣、いい?」
「もちろん」
あたしが座る、すぐ横。
そこに腰掛けた横沢くんは、だらんと垂れる制服のネクタイを、邪魔そうにシャツの胸ポケットに入れた。
たったそれだけの仕草に、ドキドキする。
本当はそんな些細なことですら、ずっと見ていたいけど、他校生であるあたしに許された時間は、電車待ちの10分だけ。
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