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「か、かつら?」
「なみだひっこんだじゃねぇかよ」
え…と自分のめもとを両手でさわる。
もうオレらがたいいくかんに入る番だ。
ヤツの手を引いて、前に進むとヤツの慌てた声。
「かっ、かつら!いいの!?」
「あ?いーよ、そんなもん。おまえがくろじゃないならオレもくろじゃなくていい」
びみょうにムレるし。
黒じゃないヤツが一人だけいると注目されるし、そしたらまた泣くんだろ。
うぜぇ。
「ありがとう…」
ヤツは目を見開いていた。
――無事にとは言わないけど、無事に終わった入学式。
オレはダルくて、とにかくダルくて、名前を呼ばれたとき、返事しなかったから親父が席を立って怒鳴ったからしぶしぶと返事をしたんだっけ…。
めんどうだよなぁ…まったく。
「ななせー、それそめてんのかー?」
「え…」
きょうしつの中はうるさい。
オレは着ていた服を崩して机に突っ伏して目を閉じてると、そんな声が聞こえてきた。
"ななせ"ってだれだっけ。
とまどった声は誰かに似ている…。
やたら泣き虫の…。
――あ。
のそりと起きてななせの方を振り返った。
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