【第10話】欲望と悪意の匂い

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「どうぞ、こちらで・・・」 倫子(のりこ)の力で、 轢き逃げした車を見つけることはできたが、 宇崎はその後のことを何も考えていなかった。 しかしタクシーの運転手遠藤が機転をきかせ、 塀に車をぶつけることで、 その家に潜り込むことができた。 女は、 そんな宇崎たちの思惑を知る由もなく、 値打ち物の調度品が並ぶ広い応接間に、 宇崎たちを案内した。 「あの奥さん・・・、 本当に申し訳ありませんでした」 遠藤は高価な石垣に車をぶつけた加害者らしく、 頭を下げた。 「主人は、 仕事でまだ戻っておりませんので、 わたくしが話を伺います。 ちょっと失礼して、 着替えてまいりますので」 ゆっくりとドアを閉め、女は出ていった。 「ただもんじゃないね、この家は」 遠藤は、 茶色い皮張りのソファーを撫で回しながらそう言った。 「倫子ちゃん、あの女が犯人なのかい?」 宇崎は、 妻を轢き逃げした犯人が、 すぐそばにいるのかと思うと落ち着かず、 中庭に面した窓の前でうろうろとしている。 「・・・宇崎さん。 ちょっと厄介かもしれないわ」 ソファーに腰を掛け、 目を閉じ、 全神経を部屋が放つ匂いに集中していた倫子は、 大きく溜め息をつきながら、 宇崎に言った。 「どうしてだい?」 不安そうに尋ねる宇崎を尻目に、 倫子はゆっくり立ち上がり、 いろいろな形をしたトロフィーが飾ってある棚の前に立った。
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