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「小学校の時、
一度だけ貧血で倒れたことがあるの。
社会科見学でバスに乗って、
都内の新聞社や工場をいろいろ回った時だったわ。
そこは最後だったんで少し疲れていたけど、
べつに体調が悪かったわけじゃなかったの。
テレビでよく見るところだったから、
結構ワクワクして、
楽しみにしていたんだけど・・・。
でも、
バスから降りて大きな玄関を入った途端、
急にめまいがして・・・。
なにかこう、
人が持つ、
ありとあらゆる欲望や悪意が襲ってきて、
立っていられなくなって、
気を失ったの・・・。
気がついたら、
バスの中で寝ていたわ」
「欲望に悪意か・・・。
わかった!
どっかの料亭だろう。
ああいうところは、
下心まる出しのやつらがよく使うし、
勘定は悪意としかいいようがねえ」
自信満々に遠藤が答えた。
「小学校の社会科見学ですよ」
「いい勉強になると思うけどなぁ」
「・・・もしかして、国会議事堂かい?」
「さすが、新聞記者さんね」
倫子は宇崎に少し微笑んで、
ゆっくりと背をむけた。
「でも、それが?」
「感じるの。
・・・特にこのトロフィーから」
宇崎は倫子の横に立ち、
その台座にある金色のプレートに刻まれた文字を、
声をあげて読んだ。
「新民党第2回ゴルフコンペ・・・」
「そういうことですか。
へぇー、どうりでね。
つまりこのソファーも葉巻も、
俺たちの税金てわけだ。
だったら遠慮するこたぁねえ」
遠藤はソファーにどっかと坐り、
テーブルの箱から葉巻を取り出して、
火をつけた。
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