【第10話】欲望と悪意の匂い

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「小学校の時、 一度だけ貧血で倒れたことがあるの。 社会科見学でバスに乗って、 都内の新聞社や工場をいろいろ回った時だったわ。 そこは最後だったんで少し疲れていたけど、 べつに体調が悪かったわけじゃなかったの。 テレビでよく見るところだったから、 結構ワクワクして、 楽しみにしていたんだけど・・・。 でも、 バスから降りて大きな玄関を入った途端、 急にめまいがして・・・。 なにかこう、 人が持つ、 ありとあらゆる欲望や悪意が襲ってきて、 立っていられなくなって、 気を失ったの・・・。 気がついたら、 バスの中で寝ていたわ」 「欲望に悪意か・・・。 わかった! どっかの料亭だろう。 ああいうところは、 下心まる出しのやつらがよく使うし、 勘定は悪意としかいいようがねえ」 自信満々に遠藤が答えた。 「小学校の社会科見学ですよ」 「いい勉強になると思うけどなぁ」 「・・・もしかして、国会議事堂かい?」 「さすが、新聞記者さんね」 倫子は宇崎に少し微笑んで、 ゆっくりと背をむけた。 「でも、それが?」 「感じるの。 ・・・特にこのトロフィーから」 宇崎は倫子の横に立ち、 その台座にある金色のプレートに刻まれた文字を、 声をあげて読んだ。 「新民党第2回ゴルフコンペ・・・」 「そういうことですか。 へぇー、どうりでね。 つまりこのソファーも葉巻も、 俺たちの税金てわけだ。 だったら遠慮するこたぁねえ」 遠藤はソファーにどっかと坐り、 テーブルの箱から葉巻を取り出して、 火をつけた。
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