【第11話】警戒の匂い

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「お待たせしました」 応接間の重々しいドアがゆっくり開くと、 大きく胸をあけ、 深くスリットの入ったドレスに、 ワインカラーの、 腰まで覆うショールをまとった夫人が立っていた。 夫人にとっては、 家でくつろぐ部屋着のつもりだろうが、 さりげなく肩にかけるショールひとつとっても、 宇崎の給料一ヵ月分だ。 倫子も裕福な家庭に育ったが、 この家に住む人達と倫子の両親とでは、 お金をかけるところが明らかに違っていた。 宇崎や遠藤はといえば、 その夫人の姿にしばし圧倒され、 オドオドと視線のやり場を探している。 いざ戦おうとする敵を前にして、 なんともだらしない男たちだ。 倫子は夫人がソファーに腰掛けるやいなや、 鼻の下が伸びきったふたりに喝を入れるべく、 先制攻撃を仕掛けた。 「驚きました。 新民党の村瀬さんのお宅でしたんですね」 「はい」 「確か、息子さんがいらっしゃいましたよね」 「ええ。 主人の秘書をしております」 「そうなんですか。 ところで・・・」 倫子は、 夫人の目を真っ直ぐ見ながら言った。 「あのBMW、 息子さんがお使いになることもあるんですか?」 「えっ?」 高価なショールとドレスの中から、 夫人が僅かに発した匂いを、 倫子は逃さなかった。 それは人が、 激しく『警戒』を感じた時に発する、 敵意の匂いだった・・・。
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