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「その富山美紀がどうしたの?」
「知り合いに、
写真週刊誌のカメラマンがいてね。
そいつが半年ぐらい前、
真夜中、
彼女のマンションに、
若い男と一緒に入っていくところを
ばっちりカメラにおさめたらしいんだ。
彼女はドラマやCMで結構売れてるし、
それまで一度も浮いた話がなかったから、
大スクープのはずだったんだけど、
編集の段階でボツにされて、
やけ酒に付き合わされた」
「あら、どうして?」
「あたりまえだろう。
嫁入り前の娘が自分の部屋に、
男連れ込んでいたなんてことが世間に知れ渡ったら、
嫁の貰い手がなくなっちまう。
きっとその富山なんとかの親父さんが、
雑誌屋に頭下げて、
頼み込んだんだよ。
娘を持つ父親だったら、
きっとみんなそうするな」
遠藤は、
若い女と聞けばすべて自分の愛娘と結び付けてしまう。
きっとAV出身であることを堂々と掲げて、
テレビに顔を出す昨今のタレントを知ったら、
父親になりかわって、
近所のレンタルビデオ屋を襲撃するんじゃないだろうか。
「遠藤さんの言うように、
確かに父親が絡んでいるんだけど、
それは彼女の父親じゃなくて、
相手の男の父親だったんだ。
まあ、それが普通の人間だったら、
出版社だって相手にしないだろう。
でも男の父上は、
電話一本でボツにした」
「・・・わかったわ。
このお家のお父様ね」
「ああ。
村瀬には、
去年大学を卒業して自分の秘書をやらせている、
ひとり息子がいるんだよ。
ゆくゆくは立候補させて、
二世議員にするつもりだろう。
今まさに首相の座に手を掛けようとしている、
村瀬にとっては、
たとえ息子のスキャンダルだとしても、
公にはしたくなかったんじゃないか」
「その人ね、
宇崎さんの奥さんを轢き逃げしたのは・・・」
「おそらく・・・」
倫子はもう、
どんな雑踏ですれ違っても、
村瀬の息子を特定できる自信があった。
倫子にとって、
彼が生活するこの家の匂いを知ることは、
顔写真を見せられるよりも確かなことだった。
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