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「んむ……」
暖かい陽の光が顔に射し込む。朝が来たらしい。日の光を拝むのはなんだか久しぶりに感じてしまう。恐らく夜に活動することが多かったからだ。ボサボサになった髪をくしゃくしゃとかきあげ、大きな欠伸を一つ。
(……あのまま寝ちゃったのね……あたし)
取り敢えず洗顔でもして気持ちを一新させようとお風呂場へむかう。
(師匠……今どこにいるの?)
生きていて欲しい。切実な願いだ。だが今のあたしには師匠の生存を確認できる術はない。
更に言えば、ベリアルを見つける手段もないということにもなる。
(虎丸みたいに探知結界でも使えれば話は早いんだけど……)
生憎、そういった類の術にはこれと言った縁がなく、攻防術と少しの支援系統の術しか使えるものがない。仲間に手伝ってもらえば師匠を見つけることも出来るかもしれない。でももし師匠のいる場所にベリアルがいたとして鉢合わせしたら、全員無事で帰れる保証はどこにも無い。
(……探索術がないとやっぱり苦労するわね)
あたしは水たまりの上を歩きながら考えることにふけっていた。
「えっ、水?」
どこまで鈍感なのか。風呂場を前にして今更気が付いた。
床が水浸しになっているのだ。
それも足首まで浸かってしまっている。
これにはさすがのあたしも驚愕した。
「な、何よこれ!?うわっ!」
風呂場の扉を勢い良く開け放つと大量の水が押し寄せ、頭から被る羽目になった。
「ケホッ!ケホッ!なんなのよ……もう」
水道管でも破裂したんだろうか?そう思った矢先。
「うわぁぁぁん!虫怖いですぅぅぅ!」
「はぁ!?へぶ!」
よくわからない悲鳴と同時に足蹴りを顔面に食らった。
「いつつ……、いったいなに?」
廊下の隅っこでブルブルと体を震わせている妖怪に目を向ける。
「虫は怖いですぅ……虫だけはぁ」
「ちょっと。人ん家で何やってんのよ!」
「ひぃ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ!」
あたしの怒声にビクリと反応し、こちらを見て涙ぐみながら謝る妖怪。
耳に独特のヒレを持ち右肩には龍の紋章のようなものをつけている。
背丈も人間の子供と変わらない位で小さい。
あたしは妖怪の顔を見て、知り合いだとわかるとため息をついた。
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