第33章 アリバイ崩し

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第33章 アリバイ崩し

 木内は、取調室で、愛子に対して執拗な尋問を続けた。  彼女は頑として、矢崎の殺害を認めなかった。利尻岳の夕焼けの写真を見せても、知らぬ、存ぜぬを押し通した。  稲葉との不倫についても、プライベートな事は証言する義務はないと突っぱねた。  それでも木内は、執拗に尋問を繰り返した。 「愛子さん、あんたねぇ、いい加減、認めたらどうだい。稲葉との不倫は、社員の証言から裏が取れているんだ。この写真に写っているのは、あんたと稲葉だ、そうだろう」 「それは、単なる噂です。それに、こんな影絵みたいな写真から、私だと、よく断言できますね?」  愛子は反発した。 「この写真が撮られたのは、七月七日、つまり、七夕の日だ。場所は北海道のサロベツだ。その日に、稲葉が北海道にいた事は分かっているんだ。あんた、七夕の日は、何処で何をしていた。いい加減に、白状したらどうだ」  木内は激しく机を叩いた。  木内には、愛子の狼狽が手に取るように分かった。  彼女は、写真をジッと見詰めてから、長い溜息を漏らした。木内は、ついに愛子が自供すると思ったが、凛とした瞳で睨み返して言った。 「その質問には答えられません。第一、矢崎さんが殺害された事と何の関係もないじゃないですか」 「関係は大いにある。あんたと稲葉は、この写真を抹消するために、共謀して矢崎を殺害した。こっちは、全てお見通しなんだよ。幾ら、すっ呆けても現場にあんたのネックレスが落ちていたんだ。それが、動かぬ証拠だ」  木内は愛子を睨みつけてから、机の脚を蹴った。
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