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「完璧な変装でしたね、稲葉さん。誰も気付かないのも無理はありません。僕も最初は全く気が付きませんでした。しかし、背後に写っていた女性を見て、ハッとしました。そこに写っていたのは、涼子さんでした。あなたの札幌での不倫相手 が、何故、霧が峰にいたのかが不思議でした。もしやと思って、涼子さんの隣に写った男をじっくりと観察してみると、十字架のようにならんだ小さな五つの黒子が、左腕に あることに気付きました」
犬養が、稲葉の左腕に視線を向けると、彼は、隠すようして左腕に手を当てた。
「どうやら、お前の目だけはごまかせなかったようだな。まぁ、良い。百歩譲って、あの写真に写っていたのが俺だとしよう。だが、それだけで、殺人者扱いされるのは納得いかないな」
「矢崎さんが撮影したはずの霧が峰の写真がなくなっています。つまり、あなたの本来の目的は、あの破られた写真です」
「非現実的な推理だな。写真ごときで、人を殺すなんて馬鹿げているよ」
「そうです、全く馬鹿げています。賢いあなたがそんな過ちを犯すとは…。しかし、するはずのない過ちをあなたは犯してしまっ たのです。あなたが、札幌から軽井沢に移った理由の一つに、涼子さんとの不倫問題がありました。ブライダル界の風雲児とまで言われたあなたは、前途洋々たるキャリアを札幌で築いていました。ヘッドハンティングされたからと言って、そう簡単に会社を移れるものではありません。しかし、社内不倫が奥さんにばれて、家庭問題で行き詰ったあなたは、心機一転、札幌を離れて軽井沢に移ってきた。しかし、涼子さんとの関係は、まだ切れていなかった。もし、あの写真が矢崎さんから専務に渡り、奥さんにばらされたら、あなたは、一貫の終わりです。
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