第31章 北海道の七夕

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 ホテルの受付に依頼し、稲葉を呼び出してもらった。  稲葉は応接室に刑事二人を通して、ソファーに座るなり開口一番言い放った。 「刑事さん、誘拐事件の犯人は捕まりましたか?」 「いや、鋭意捜査中です」 「ふん、またそれか。刑事は、その台詞ばかりですね。鋭意捜査中って事は、犯人が分かってないって事っしょ?」 「そういう意味合いもありますが…」  木内はムッスリした。 「したら、鋭意捜査中です、なんて言わないで、まだ犯人は捕まっていません、ごめんなさい、と言うのが筋でしょう。下手な弁明(べんめい)をする官僚みたいですよ。そう言えば、警察も公務員だったね。それで杓子定規な事しか言えないんですね」  稲葉が、口許に冷笑を浮かべた。 「犯人の目星は、それなりについています」  木内はこみ上げてくる怒りを抑えて、慇懃無礼(いんぎんぶれい)に笑って見せた。 「そうですか、それなら良いんですが…所で、私に聞きたい事と言うのは何ですか?私も暇じゃないんで、手短にお願いしますよ」 「じゃあ手短に聞いてやる。5日前の夕方、何をしていた?」  木内は口調を変えた。 「はぁ、5日も前の事を唐突に聞かれても、覚えてる訳ないっしょ」 「では、アリバイはなしと言う事だな」 「ちょっと待ってよ、刑事さん。そう言うあんたは、5日前の晩飯に何を食ったか覚えてるのか?」と不遜な態度で質問を返してきた。 「いや、覚えてねぇけど…」  木内は腹の中で、一々、気に障る野郎だなと思った。 「でしょう、急にそんな事聞かれても答えられる訳ないっしょ。ちょっと待っててよ。今、ビジネス手帳持ってくるからさ」
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