第34章 犬養の決意

4/5
前へ
/38ページ
次へ
「警察は騙せても僕は騙せませんよ。愛子さんのネックレスが、釜ヶ淵に落ちていました。これは、明らかに、彼女をはめようとして、犯人がやったことです。愛子さん以外で、装飾品を扱えるのは、専属スタイリストの荻原歩美さんです。稲葉さん、僕はあなたが、荻原さんとも火遊びをしている事を知っていますよ」 「おのれ、犬養、俺を警察に突き出そうというのか」 と、犬養の胸倉を付かんで睨み付けた。 「札幌でのご恩は忘れません。しかし、犯罪は犯罪です。お願いです。自首して下さい。故意に殺した訳ではない筈です。稲葉さんが、本当に悪い人間ではない事は、僕がよく知っています。矢崎さんの命が戻ってくる事はありません。しかし、罪は償う事が出来ます。神に懺悔(ざんげ)して、贖罪(しょくざい)して下さい」  犬養は、掴まれた手を振り払い、稲葉の目を真っ直ぐに見た。 「ふん、神に懺悔して自首しろだと。馬鹿を言うな、証拠はないんだ。何故、自首しなければならないというんだ」 「自首しないのであれば、仕方ありません。僕が警察に通報します」  窓の外で稲妻が闇を切り裂き、雷鳴が轟いた。 「お前は俺の秘密を知ってしまった。しかし、忘れたのか犬養。俺も、お前の秘密を知っていることを。なぁ、犬養。今まで通りに、ギブ・アンド・テイクで行こうじゃないか。お前が黙ってさえいれば、証拠はないんだ。懺悔など糞食らえだ。分かったな。全ては順風満帆に進んでいるんだ。お前の処遇も悪いようにしない、俺に任せておけ。石墨も死んで、専務のポストは空白になった。後釜は俺しかいないだろう。お前には、破格の昇級を約束するよ」  稲葉は諭すように言って、勝ち誇った笑みを浮かべた。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加