第31章 北海道の七夕

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「では、質問を変えよう。あんた、七月七日は、何処にいた」  木内は、苛立ちを抑えて、努めて事務的な口調で尋問した。 「七月七日ですか、その頃は、確か札幌に出張してましたね。ちょっと待って下さい。確認しますから…」と手帳をめくった。 「七月四日から六日まで札幌出張ですね。七日は、休みを取って札幌にいました」 「七日は、どこで何をしていた」 「午前中は、札幌の実家でのんびりしていました。それから、大学時代の友人と昼飯を一緒に食いましたね」 「嘘付け、お前は、サロベツにいたんだろう」 「はぁ、どうして、そう言う事になるのかなぁ?めちゃくちゃな推理ですね」 「はっきり言ってやろう。この写真に写っているのは、お前と愛子だ。お前らが不倫をしているというのは、裏が取れてるんだよ」  木内は額に青筋を立てて机を激しく叩いた。 「それは、邪推ですよ。僕には妻子もいます。まして、愛子さんは、社長の妻ですよ。僕は神に誓って、愛子さんと不倫なんてしていません。そんな、根も葉もない噂を言われるのは、不愉快だ」  稲葉は不機嫌さを露わにした。 「不倫の件は、何れ証明してやるよ。いずれにしても、七月七日、お前は北海道にいた。とすれば、夕方にサロベツで愛子と会うのは可能なはずだ」 「冗談でしょう、刑事さん。札幌からサロベツまで300km以上はありますよ。軽井沢から長野市に行くとの訳が違うんですよ。車でも電車でも、軽く、5,6時間は掛かりますよ」 「そんなに遠いのか…だ、だけんど、300kmなら、移動できない距離じゃねぇな。高速に乗って100kmで飛ばせば、3時間だ」
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