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第31章 北海道の七夕
晴天ならば、雄大な浅間山が車窓に見えるはずだが、今日はあいにくの土砂降りだった。
休みなく動くワイパーを眺めながら、木内は金子に話し掛けた。
「遠山の記憶通りに、ピンクのネックレスが愛子の物だとすると、矢崎殺しの犯人は、愛子である可能性が高くなる。恐らく、争っている間に、落っことして穴の中に入ったんだろう」
「そうっすね。それと、もし愛子が犯人だとすると、共犯者がいますね」
「せっかく俺が言おうと思っていたのに、先に言うなよ」
「すいません」
金子がハンドルを握りながら笑った。
「矢崎が痩せているとはいえ、女一人で背負って、急な崖を登るのは難しい。とすれば、一緒に遺体を遺棄した共犯者がいると見て間違いねぇだろう」
「それは、不倫の噂がある稲葉でしょうね」
「だから、先にいうなって言っただろう。俺が言うつもりだったのに。何れにしても、愛子を攻める前に、まず、稲葉を攻めてみよう。将(しょう)を射ようと欲すれば、先ず馬を射よって言うからな」
木内は、助手席でほくそ笑んだ。
「稲葉と愛子の共犯だとすると、夕焼けの写真に写っているのも稲葉と愛子だと見て間違いないですね」
「その秘密を知った矢崎と石墨が、写真をネタに脅迫をしたが、逆に殺された」
木内は鼻息荒く気勢を上げた。
「でも、木内さん。なんで、石墨の殺害は、誘拐なんて手の込んだ事をしたんすかね?殺すだけなら、誘拐なんてする必要もないし、川には捨てないでしょう。普通は、発見されづらいように、山林に埋めたりしますよね」
「うーん、そこら辺は、よく分かんねぇな。まぁ、細かい事は置いておいてだ。稲葉か愛子が口を割れば、事件の真相が判明するさ」
木内は解決した気分になって、満足げに頷いた。
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