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ナイフの握った手に神通力を込めてその刃物を粉々に砕き潰す。
手の痛みなんかこの際どうだっていい!わからないなら徹底的に理解させるまで!
あたしの妖怪退治は何時だってそうだった。
罪を犯した妖怪や悪魔を殺さずに間違った事を理解させて地獄で更正させる。
何時だってあたしはそうやって依頼をこなしてきた。
少しでも世界を変えようとやってきたんだ。
「ベリアル!あたしがあんたの代わりに世界を救ってやるわ!」
「ふざけるな!誰がお前になんか任せるか!私が救ってやるからお前は引っ込んでろ!」
お互いに距離をとったその瞬間。
ほぼ同時。印を切ったあたしと、呪文を唱えたベリアル。
「神王術!」「大魔術!」
「【五重閉塞結界・夢幻輪廻転生】!」「覚醒炎魔龍【ベル=フラム・ブラスト】!」
蜘蛛の巣の様に結界を何重にも張り巡らせ、それは色鮮やかに規則正しく網を描く。やがて小さな太陽を彷彿させる見事な大結界が完成しベリアルの辺りを囲い込む。そしてその中心で現れた黒龍は雄叫びを上げ、自分の体の三十倍以上もの大きさを誇る黒炎の弾が瘴気を纏い結界へと激突する。その姿は黒龍というよりまさに魔龍と呼ぶにふさわしい。
「「はぁぁあぁあぁああ!」」
双方のそれらの術は一斉にぶつかり、巨大な衝撃と突風、地響きを生み出す。
膨大な力の前に地盤は歪み、空を覆っていた雲すらも払いのけ青空が顔を出し始める。
「時玻さん!!」
『ダメです!天乃さん!今近づいたら巻き込まれてしまいます!』
「でもこのままじゃ!」
騒音や爆音に遮られ、二人の会話はあたしに聞こえない。
あたし達はただただ互いの想いを全力でぶつけていた。
「はぁはぁ……。もう……観念したら、どうなのよ……!」
「そっちこそ、……ふぅ。限界……なんだろう?変な見栄……はるな!」
気を抜けば負ける。
そんな二人の極限状態は続き、あたしの体に変化が起こる。
「――ゲホっ!ゴホッ!」
突如咳込み、口内に血の味が広がる。
(まずい……。術の反動がもう……)
「もらった!」
「うぐ……っ!」
術を発動している両手の輝きが徐々に弱まっている。
神通力の出力は十分だったのにどうして?わからない。ただ一つ言えるのは……。
(まだ完成、出来てなかったのね……。情けないわ)
「安心、しろ。お前が居なくなった後でも、世界は……救われる!」
「くっ……そ!」
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