第5話

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喉元にナイフの様な刃物を突きつけられ、目が点になる。 「っ!?時玻さ――」 「――来るな!」 駆け寄ろうとする天乃に静止の声をかける。 ベリアルは真っ直ぐあたしの目を捉えていた。本気で会話に臨んでいる。 水を指すにはあまりにも酷だ。 「嘗め過ぎだ。妖怪や悪魔を何だと思ってる?そんなキレイ事を言えるのは騙された事が無い人間の言う事だ。お前も最高クラスの巫女ならその位の事、知っているだろう?」 「………………」 「この世界はお前の考えてる以上に、残酷で薄汚く非情だ。怨念や非想、嫉妬や絶望、血で血を拭い、涙に濡れ、嘘で固め上げ、偽善を纏った悪魔の様な世界だ。それをお前ら師弟は平気で救うとかほざく。笑わせんな!そんな思いつきみたいに軽々しく口にするな!」 「……だから、この世界を壊して救おうって?」 「キレイ事を並べたお前らよりもはるかに健全で望みのある答えだ。違うか?」 「……えぇそうね。どうなるかわからないけど見込みのある素晴らしい答えだと思うわ」 「だったら――!」 「――でもへどが出るわ!」 突きつけられたナイフを鷲掴みにしてあたしは抗った。 「こんな世界で何が悪いの?そりゃ全部壊して新しく作れば簡単よ。何もかも一から作り出せば簡単よ。だけどそんなものに何の意味があるのよ?新しく生まれて来る人達には都合がいいかもしれない。でも今この瞬間、このたった一瞬を、精一杯、一生懸命に生きている妖怪や悪魔や人間達をないがしろにしていいわけ?違う!断じて違うわ!あんたはそうやって自分の都合のいいように屁理屈をこねて勘違いしてる腐れ疫病神よ!いい加減自覚しなさい!」 激痛の元となる切り傷から血がボタボタと地面に滴り落ちる中、あたしはそう叫んだ。 人間代表として、あるいは幻世の代弁者としてかもしれない。 ただ、あたしは思っていた事をありのままぶつけたのだ。 「お前こそ出来もしないキレイ事を並べたエセ平和主義者だろうが!私に歯向かうな!」 「あたしはあんたみたいに現実から逃げたりなんかしてないわ!あたしはこの不完全な世界のままで何十年何百年と年月をかけてこの世界を変える!」 張り裂ける思い。大きく息を吸って後を続ける。 「それが幻世の意思であたしの意思だから!」 「――なっ!?」
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