As You Wish

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「ハルタくん、暗いよ」 仕事は仕事。 なので、本の整理を済ませて台車を押して事務所に戻る。 次の仕事は、届いた本にブッカーと呼ばれる透明シートを貼ること。 作業台に本を置いて、ブッカーを本それぞれのサイズに切っていく。 俺が作業しているのを遠くから見ていたバイト先の上司…っていうか、正職員の人が溜息をつきながら云った。 暗い。 ええ。そうでしょうとも。 暗くもなります。 でも、その説明はさせないで欲しい。 今は。 「ダメっすよ、ねーさん。そいつ、振られたばっからしいですから」 「あら、やっぱり?」 「ええ?ハルタ君はーとぶれいく?」 パソコンの前からあっさりと冷たい台詞を返した先輩に、女性陣が二人食いついてきた。 女性陣ふたりはねーさんと美弥子さん。 ねーさん、っていうのは正職員の人。 平田裕子さんっていう。 正にねーさんって感じの人。 それから、俺と同じ苗字の赤の他人、山本美弥子さん。 結婚間近な彼女は、最近とみにお花畑の住人だ。 先輩ってのは椎嵩史さん。 歳も近いし、口は悪いし無愛想だけど何だかんだで面倒見がいい。 俺が最近仲良くしてる、小池くんとも仲がいい。 っていうか。 最初は幼馴染って聞いてたんだけどさ、椎さん、間違いなく男なんだけど。 なんだけど、小池くん――こいちゃんの“いいひと”らしい。 それに気がついたのは、ねーさんで。 こいちゃんはものすごく嬉しそうに、椎さんは不本意そうに、肯定してたのが印象的だった。 「そういうの、生理的に受け入れられない人もいると思うから」 椎さんは気を使わせて申し訳ない、そう言って頭を下げた。
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