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「友花ちゃん、よかったの?」
冷蔵庫に買い物を片付けつつ、ねーさんが言った。
オレの手元は包丁とまな板。現在たこ焼きに入れる刻みねぎを大量生産中。
因みに粉の方は玉子と水とともに巨大なボールに入っている。美弥子さんがせっせとかき混ぜ中。
「はい?」
「友花ちゃんのご飯、大丈夫だった?」
ああ。
こういうとこ、ねーさんはすげーなって思う。
時々――正直かなり――強引なトコもある人だけど、割とちゃんとまわりのことも見てる。
ウチの家庭の事情を知ってるからってこともあるんだろうけど、友花のことまで心配してくれるって言うのは、なんていうか……ちょっと、ホッとする。
「連絡はしてるんで、何とかしてますよ」
「よく考えたら、ウチじゃなくてハルタくんちでもよかったかなぁって思ってさぁ」
片付いてないし後片付けもなくていいし友花ちゃんも心配だし、なんて、ねーさんがどこまで本気なのかわからない理由を並べ立てる。
「や、ねーさんちのほうでよかったです」
「即答ね。何でよ?」
「妹があれで人見知るんで。あとあれっすよ、ねーさんちの方が台所、使いやすいんですよね」
ねーさんは一人で2LDKのマンション暮らしだ。
だから、正確には台所って言うよりキッチンっていったほうが似合ってる。
アイランド式でシンクのところからリビングまで見渡せる。
割と広い部屋。
「そうなの?」
「ウチのはシンクが低いんすよ。台所独立した部屋になってるし。こっちのほうが作りながら話しやすいんで」
「ああ、お母さまに合わせてると、確かにシンクは低いかもねぇ。でも、あたし、ハルタくんちのお台所、好きなんだけどなぁ」
「ぼろいし使いにくいっすよ?」
「ん~、なんていうか、娘の立場でね。懐かしい感満載で好きなのよ」
ハルタくんの家って、昭和の家じゃない。
少し目を細めて本気で懐かしそうにねーさんが言った。
『家族縁っていうか、運、ない人なんだよね』って言ってた、課長の言葉を思い出す。
そうだ、この人、天涯孤独でバツイチなんだっけ。
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