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ああ、夢を見てる。
夢を見ながらそう思うことってあるじゃん。
ふわふわしてて、もう、絶対会えない人に会ったりして。
「るんた、お母さん癌だって」
あんまり嬉しくないけど。
あの日、台所で姉貴がそう言ったのをもう一回経験してみたり。
そうそう。
わあーん、って、耳鳴りみたいになったのを覚えてる。
姉貴の目からは涙がボロボロこぼれてるのに、何故だか普通に話していて、奇妙な感じだった。
「どこまでもつかは気力の問題だって言われた」
「それで、どうすんの?」
「お母さんは家に帰りたがってるから、多分、客間にベッド置いて介護することになると思う」
「ふーん」
「後は今までと変わらないよ。るんたとあたしが家事担当」
どこもみていない目で姉貴が言ってた。
「もう、身体は動かないから殆んどあたしたちが家の事しなきゃいけなくなるけど、適度に頼らなきゃね。
お母さんがいなきゃって思ってもらわなきゃ、気力がなえちゃう。
もう大丈夫だなんて、安心されちゃ困るのよ」
姉貴がめちゃくちゃなことを言ってると思った。
めちゃくちゃなのはわかってるけど、そう思わなきゃやってらんないっていうのも、わかってた。
あとはもう姉貴の思惑通り。
社会人になってた姉貴の代わりに、俺がほとんどの家事を受け持つようになって、家事万能の俺が出来上がっていく。
そして夢は次々と場面が変わっていくもので。
クリアにあの場面を見たんだから、ついでに母さんを見せてくれたったいいのに。
なのに、顔はついに見えなかった。
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