28人が本棚に入れています
本棚に追加
こいちゃんは、感じ取るのはすごく敏感だけど、ほかの人が理解できる言葉にするのが苦手そう。
「台所もなにもかも、お母さんがいた時のままなんじゃない?すごく、そんな感じがする」
感じ取れるこいちゃんだから、わかったのかな。
俺の家事は母さんの仕事をなぞってる。
本来は意識しないでそうなっているもの、なんだろうけど、俺の場合はきっちりなぞるのが癖みたいになってる。
洗剤一つも、目につくところは安売りのものではなくて、母さんが好んで使っていたもの。
最後の数ヶ月、そうしていた名残。
「だから、却って離れてくのかな」
勝手に口から言葉が飛び出た。
ああ、ホントは俺、こんなこと思ってたんだ。
そう気がついた。
家の中を母さんがいた頃のように整えていても、父さんや兄貴は仕事って理由で家から離れた。
姉貴は結婚して出て行った。
多分、友花も短大卒業と同時に出ていくんだろう。
もしかしたらって、ホントは気になっていた。
母さんはいないのに、いた頃のように家を整えているから、離れていっちゃうのかなって。
「落ち着いたら、懐かしくなるよ」
「そういうもん?」
「そういうもん」
はむはむと干し柿を咀嚼しながら、こいちゃんはのんびりと微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!