As You Wish

31/34
前へ
/34ページ
次へ
今はもう、ふぅちゃん一筋だけど。 そう言うこいちゃんは、デレデレしてた。 けど、ほんの一年くらい前は旅生活で、その間はホントにふらふらしていたらしい。 椎さんのことは好きだったけど、寄せられる好意は嬉しかったって。 だからって、食っちゃうんだ? ちょっと意外で、マジマジとこいちゃんの顔を眺めてたら、わしわしと頭をかいて困ってた。 「それに、オレ大柄じゃん」 「ああ、まあ、背は高いよね」 「たいていの女の子は小さくて華奢で力も弱そうだしさぁ…乗られたら、抵抗できない。怪我させそうで怖い。だから、積極的に来られるとさあ…」 「それ、椎さん知ってんの?」 聞いたら眉を下げて情けない顔になった。 ああ。 椎さんが時々いう『バカ犬』って、これのことだ。 ふと、そう思ってしまった顔。 「多分、知ってると思う。今は、ちゃんとふぅちゃんだけっていうのも」 「椎さん、大人だね」 「うん、だから、スゲー悔しい」 あ。 同じこと言ってる。 椎さんも、こいちゃんに悔しいと思うって言ってた。 「いつも、ふぅちゃんが一歩前を歩いてる気がする」 「ふーん」 「いろいろとね、大変だから、ふぅちゃんも。力になりたいし助けたいと思うのに、いつも、ふぅちゃんに助けられてる」 「破れ鍋に綴蓋…」 「ん?」 しょんぼりしちゃったこいちゃんを見てたら、ことわざを思い出した。 うん、そんな感じ。 思わず口にした言葉を聞き返そうとこっち見たこいちゃんが、すっげー優しい顔で笑った。 「ハルタさん、マジでもう布団は入りなよ。ぶり返しちゃうよ」 何だか妙に口が軽かったり、ふわふわしてんのは、どうもまた熱が上がってきたかららしい。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加