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今はもう、ふぅちゃん一筋だけど。
そう言うこいちゃんは、デレデレしてた。
けど、ほんの一年くらい前は旅生活で、その間はホントにふらふらしていたらしい。
椎さんのことは好きだったけど、寄せられる好意は嬉しかったって。
だからって、食っちゃうんだ?
ちょっと意外で、マジマジとこいちゃんの顔を眺めてたら、わしわしと頭をかいて困ってた。
「それに、オレ大柄じゃん」
「ああ、まあ、背は高いよね」
「たいていの女の子は小さくて華奢で力も弱そうだしさぁ…乗られたら、抵抗できない。怪我させそうで怖い。だから、積極的に来られるとさあ…」
「それ、椎さん知ってんの?」
聞いたら眉を下げて情けない顔になった。
ああ。
椎さんが時々いう『バカ犬』って、これのことだ。
ふと、そう思ってしまった顔。
「多分、知ってると思う。今は、ちゃんとふぅちゃんだけっていうのも」
「椎さん、大人だね」
「うん、だから、スゲー悔しい」
あ。
同じこと言ってる。
椎さんも、こいちゃんに悔しいと思うって言ってた。
「いつも、ふぅちゃんが一歩前を歩いてる気がする」
「ふーん」
「いろいろとね、大変だから、ふぅちゃんも。力になりたいし助けたいと思うのに、いつも、ふぅちゃんに助けられてる」
「破れ鍋に綴蓋…」
「ん?」
しょんぼりしちゃったこいちゃんを見てたら、ことわざを思い出した。
うん、そんな感じ。
思わず口にした言葉を聞き返そうとこっち見たこいちゃんが、すっげー優しい顔で笑った。
「ハルタさん、マジでもう布団は入りなよ。ぶり返しちゃうよ」
何だか妙に口が軽かったり、ふわふわしてんのは、どうもまた熱が上がってきたかららしい。
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