As You Wish

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申し訳ないと思いながらも、布団に入る。 こいちゃんはテレビをつけたらしい。 何を言っているのかは定かじゃないけど、床を通して聞こえてくる人の話し声。 明かりを消した部屋の中。 けど、階段の下の部屋から届くかすかな光。 ああ。 唐突に思い出した。 これが普通だった。 両親がいて、兄姉がいて、妹がいて。 このご時世には大人数の家族だった。 いつも家のどこかに誰かがいて、人の気配があった。 それを疎ましく思っていたことも、なかったわけじゃない。 それでも。 そんな状態がなくなってみて初めて、あれは、愛しい日々だったんだと気がつく。 布団が温まってきて、俺はウトウトとしているんだろう。 階下で携帯の呼び出し音が鳴る。 俺のじゃないから、多分、こいちゃんの。 ぼそぼそと話声。 時々含まれる笑い声と。 優しい声色は、きっと、椎さんからの電話だからだ。 家の外、通りの方で聞こえてくる足音は、友花のに違いない。 もうすぐ鍵を開ける音がして、はっきりと会話が聞こえるんだろう。 「おかえりなさーい」 「あれー?ただいまー」 熱に浮かされて、いろんなことを思い出した。 ふわふわとしながら、いろいろと考えた。
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