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月は見ていました。その夜のことです。月は星たちを連れて浜辺のライブ会場に出かけようと思っていました。チラシが「開演は7時からだよ、凄くカッコいいバンドが出るよ」と嬉しそうに言いました。役に立ったことが嬉しくてしょうがないというふうです。チラシは風に身体をパタパタと動かしました。屋根瓦もピカピカに輝いて楽しそうでした。
月と星たちはチラシに聞いたとおりにして、道に迷うことなくライブ会場にやってきました。すでに大歓声。ロックの轟音に若者たちはすっかり興奮していました。いよいよカッコいいバンドが出てきました。月と星たちも目と耳を大きくして期待しました。カッコいいバンドは静かに歌い始めました。夜がうっとりするくらいに素敵な声でした。その時でした。「どれどれ俺たちにも聴かせてくれよ」と、黒い雲たちがぞろぞろとやってきました。月と星たちにはライブがまったく見えなくなってしまいました。
音楽は静かな曲からノリのいい激しい曲に移っています。その演奏は海や空を驚かせ、雲は身体を揺らせて楽しんでいます。でも月と星たちにはまったく見えないのです。微かに音楽は聞こえてくるのですが、海がダンスする波の音に消されそうでした。もう月は嫌になって、また街のほうに戻っていきました。星たちはもう眠いのか、明日も早いからという理由でみんなそれぞれ家に帰っていきました。
月は見ていました。チラシは屋根から落ちそうになっていました。少女が部屋の空気を入れ換えようと窓を開けると、チラシがうまい具合にヒラヒラと舞い落ちてきました。少女はチラシをさっと手に取ると、目の色を変えて喜びました。月には少女の表情が大人びて見えました。少女はチラシを見ながらどこかに電話をしました。そのうち急いで化粧をして、あまり見たこともないような綺麗な洋服を着て、外に出かけて行きました。チラシは少女のバッグの中で安心したように眠っていました。
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