第1話

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大きくて真っ青な空です 白い雲はそんな空を見てワクワクしていました 「午後からは僕の出番だ! さて何を描こうかな」 雲は久しぶりに晴れ上がった空と やがてくる自分の出番が嬉しくてしょうがありません 「よし! 怪獣を描いて子供たちを驚かせてやろう」 やがて午後になり雲は思ったとおり 角のある大きな怪獣を空に描きました 雲は自分の出来栄えに満足して 「どうだ!」というようにして地上を見渡しました けれどもどうしたことでしょうか 子供たちのほとんどは家の中に居て テレビを観たりテレビゲームをしたり 外にいる子供たちもスマホでゲームをしたりメールをしたり みんな下を向いてばかりいましたので 空に怪獣の雲があることなんて誰も気づきませんでした せっかく描いた怪獣ですが 誰も見てくれないというのではつまらないと雲は思いました 「そうだ! 子供たちが大好きな可愛い犬や猫を描こう。それなら見てくれるに違いない。怪獣はちょっと怖すぎたかな」 そう言って今度は可愛い犬と猫を雲は空に描きました 「プードルなんて雲みたいなものだし、ほら、そっくりだよ。猫は真っ白なペルシアさ」 しかしやっぱり子供たちは下を向いてばかりです 時間ばかり気にして腕時計を何度も見ている子供たちもいました。 学校には子供たちを迎えにたくさんのお母さんが来ていましたが そのお母さんたちもまた家路を急いでばかりで空なんて誰も見てはくれません 雲はだんだん嫌気がさしてきました 「どうしてこんなに上手く描いているのに誰も気づいてくれないんだろう。どうして空を見てくれないんだろう」 雲は憂鬱になり心に湿度を含み 気持ちは真っ黒になりました 雲はポツポツと雨を降らしました きっと雲の涙なのでしょう その雨はやがて本降りとなり 外を歩く人たちは急ぎ足になり駆け足になり コンビニで傘を買う人 タクシーに乗る人 もうまったく誰も空を見上げる人なんていなくなりました
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