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僕が刃を振るうとき、世界はいつもひややかに僕を見ている。
空は重く鈍色に垂れ込み、そこから溢れる無色透明の粒は、僕の犯した罪をただ無情に映し出す。
足元には立地によって下へと流れる雨水との他に、まだ新しい鮮血が地を伝っている。
「――ふっ」
いつも通り食材の調達を終え、刀身に付着した血と雨を振り払い鞘へと仕舞う。
なんてことはない。もう何の感慨も覚えなくなった作業だ。
キューブ状にカットした肉の塊たちを手袋を嵌めながら持参したビニール袋へと押しこむ。どうやら少しサイズの小さいものを持ってきてしまったようだ。これは少し持ち運ぶのが大変だと苦笑していると、その時――
「やぁ、まだ君たちはそんなことをしているのかい」
僕の背後から、その声が聞こえた。
なんてことはない。これもいつものことだ。
僕はゆっくりとビニール袋を片手に握りしめて立ち上がり、振り返る。
そこにいたのは、漆黒のポニーテールを揺らす、真っ白なワンピースを着た少女。ひと目では何の変哲もないその容姿、しかし二目で傘も差していないのに降りしきる雨に一切濡れていないと分かる。
ここ『創幻』はあらゆる幻想が跋扈する異郷。きっと彼女のそれも何かしらの能力なのだろう。
一体、どんなものなのかは知らないけれど。
「また現れたんですか。毎度のことながら飽きませんね、名無しさん」
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