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マイクを通さない真織の声が、会場の隅まで響いた。
誰も話さず、けれどカメラだけがカシャカシャと鳴る中で、真織は必死に自分の思いを伝える。
静まり返った会場の中、一人の記者が真織に言った。
「でもアナタのお父さんが二宮組の組長ということは変えがたい事実ですよね? それはどう説明するんですか?」
やけにネチネチとした言い回しに、真織は質問してきた記者を見て驚いた。
あの女性と口論していた男性だったのだ。
ニヤニヤと、獲物を見つけた獣のように気味の悪い笑みを浮かべて真織を見ている。
手にはしっかりとメモ帳とボールペンが握られており、真織はただその記者を見つめた。
「アナタの父親が二宮組の組長ってのは間違いないんですよね? それを世の中が認めると思ってんですか?」
「……み、認められるとは……思っていません……けれど――」
「アンタ、自分の立場わかってんの?」
必死に答えようとしていた真織の言葉を遮り、男は鋭い言葉を投げつけた。
その言葉に、真織がグッと息を呑んだことを悟ると、男は調子に乗って次々と嫌味な質問をぶつけてくる。
「黒澤財閥を築いていくどころか、アンタの存在が黒澤財閥をつぶすかもしれないんですよ? それでもその人と一緒になりたいって思うんっすか?」
「そ……それは……」
「黒澤財閥がつぶれると、たくさんの人が路頭に迷うことになる。それでもアンタは自分の幸せを選ぶんですか?」
「あ……」
「まあ暴力団の娘が考えそうなことっすよねぇ。自分のことしか考えないような。親の顔が見てみたいもんだ」
そう言ってカラカラと笑う記者に、それはあまりにも酷すぎるのではないかと鋭い視線を向けるものも居たが、それ以上のことはせず、緒凛の隣で俯いて体を振るわせる真織をただひたすら見つめていた。
「面白いことになりましたねぇ、黒澤財閥と暴力団の黒い繋がり。こりゃ一面トップだわ」
満足そうに男は笑った。
「……人を馬鹿にするのもいい加減にしやがれ」
ポツリと聞こえてきたドスの効いた声に、男は驚いて顔を見上げ、会場にいた招待客達もギョッとした。
緒凛に握り締められていた真織の手が離れたかと思うと、反対側に持っていたマイクを奪われ、次の瞬間、大音量の声が響き渡った。
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