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『お前には仕事に対するプライドがないのかっ!』
キーン! という音と共に響き渡った真織の声。
誰もが耳を塞いで、それでも突然変貌した真織の様子に、驚きの視線を向けている。
男も驚きながら耳を塞いでいれば、真織の怒鳴り声に「はっ」と乾いた笑いを見せた。
「ようやく正体現し……」
『そこの根性腐った記者!』
男がまた暴言を吐こうとしたのを遮り、真織はマイクで怒鳴りだした。
『アンタにだって父さん母さん居るだろうが! そんな仕事の仕方して! お父さん母さんになんて言ってんだ!? 世の為人の為にちゃんと働いてますって胸張って言えるのかっ!』
「なっ――! 働いたこともないガキが偉そうに!」
『これを言うのは何度目か! 私はつい先日まで父さんが暴力団の組長だってことを知らなかった! 借金まみれの生活でウチは明日の食料もままならなかったほどの貧乏人だ!』
真織の言葉に、会場は再びざわめきたった。
『何だったら今までしてきた仕事全部言ってやる! 小学生の頃は牛乳配達と新聞配達! 近所の惣菜屋の配達手伝って生きてきた! 工事現場に道路工事! 毎日スコップ、のこぎり持って泥だらけ! コンビニ、本屋、洋服店のレジ係! そういやあ洋菓子店やファミレスで調理の仕事もしてた! まだまだ言い尽くせない仕事をたくさんしてきた! でもね! そこでは自分の仕事に誇りを持って頑張っていた人たちがたくさん居たのよ! 夢を持って、諦めずに働いて! アンタはその初心を忘れたの!?』
勢いのありすぎる真織の言葉に、男の口端がヒクッと動く。
想像を絶する真織の職歴に、会場は再び静まり返り、真織の次の言葉を待っていた。
『確かに私の父親は最低よ! 借金があるだなんて嘘ついて自分の家のこと隠してて! 借金返済の為に私が働いてるのにも関わらず、本人は道楽で仕事にも就かないで! けどね! 恥じる親なんかじゃなかった! 私がバイトから帰ってきたら必ず家に居て「おかえり」って言ってくれた! いらない借金増やして私の誕生日を祝ってくれた! 私を絶対見放さなかった! 子供が親を、親が子供を殺すのが平気になってきた世の中! 子供の私だけは絶対に見捨てるような父親じゃない! 立派な父親よっ! ……例え、血が繋がらなくてもっ!』
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