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ギリリと歯を食いしばり、小さく漏らした最後の言葉に、後ろで静かに聞いていた緒凛はギョッとし、会場の隅でそれを聞いていた直弥ですら驚きの表情を見せていた。
「真織……お前……知って……」
思わず緒凛が尋ねれば、真織は先ほどとは比に鳴らないほど悲しげな表情で緒凛を見て。
それからすぐに会場の端にいる父の方を見て言った。
『知ってたわ。小学生の時、保健の授業で母子手帳を使うことになって……お父さんは無くしたって言ってたけど、絶対あると思って家中を捜したわ。そのとき初めて知ったの、お母さんの血液型。お母さんがB型、お父さんはO型……。それなのに、AB型の私が生まれるはずないもの』
静かに真実を告げた真織に、直弥はどうしようもなく複雑な、悲しげな表情を浮かべて。
『血が繋がらなくても私の父は二宮直弥ただ一人よ。それがたまたま組長の息子だっただけ。それで私がたまたまお父さんの娘として育っただけ。それだけのことよ』
真織は切なげにそう言うと、暴言を吐いていた記者に向き直り、静かに告げた。
『アナタにも大切な家族は居るでしょう? 血の繋がった大切な家族。その家族に顔向けできないような仕事の仕方をしちゃダメ』
穏やかな声で、真織がそう嗜めても、男は納得いかないのか、ワナワナと体を震わせ始める。
「だったらどうした! 俺は俺の仕事をしているだけだ! 世の中の人間は皆真実を知りたがってる! それを伝えるのが俺の仕事だ!」
『だからって誰かを傷つけてまで自分の仕事を貫こうとするのは間違っている!』
「傷つく!? はっ! 勝手に傷ついてりゃいいんだ! 当然の報いだろう! 悪いことを散々やってきた奴等を暴いて! それに傷つくだなんてお門違いもいいとこだ!」
自分が正しいと、絶対だと言いたげな男の叫びに、真織は泣きそうになった。
悪いことをしていないのに取り沙汰されて傷つく人も居るということを、どうしてこの人はわからないのだろうか。
何を言っても無駄なのだろうかと諦め掛けたとき、ふとどこからか凛とした声が聞こえた。
「まったく、いい大人が、正しいお嬢さんの意見を受け入れられないだなんて、どちらが子供かわからないね」
その声に、男はバッと勢いよく振り返り、そこに居る人物を見れば、ものすごい形相で声の主を睨んだ。
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